12 先生とドライブ
56)コーラス部2
部員の1人が
「はい、先生は誰が付いて来るんですか?」と渋谷先生に聞いた。
良い質問だわ、とクラ子は大きく頷いた。
「何で話が出たかと言うと、同じ日に、近くでサッカー部も試合があるやん。サッカー部が前日から合宿するから、コーラス部も共同で泊まったら宿泊費、団体割引きがきくっていう話やねん。だから村上と」「キャ〜♡」
「丸山と」「うそ〜♡」
「おじいちゃん先生2人と、俺」「!!」
クラ子は小さく手を叩いた数人を見逃さなかった。みんなちっちゃくて可愛い子ばかりね。
「えーと錦戸先生は?」
「あいつはまだ顧問ちゃうやろ」
「じゃあ何で丸山先生は?」
「知らん、なんかサッカー部に付いていくそうや」
そして、ちらっとクラ子を見た。
「良かったな」と半笑いで小さく言ってきた。
いいけど。とクラ子は思った。
今のままの方が気楽だわ。私の気持ちを知ったら、この人絶対に逃げ腰になるわ。
コーラスの練習そっちのけで、部屋割りや持ち物の相談を始める部員達を横目で見ながら、渋谷は更に小さな声で、こう言った。
「基本、部員達は現地集合やけど、俺たちと一緒の車に乗って行くか?クラ子」
死んじゃうって!!
57)鬼教官村上
「あかんあかん行き過ぎぃ〜!逆や逆!逆や言うとんねーん!」
車内で村上先生の熱血指導が入っている。運転席の丸山先生は、オロオロしながら一生懸命ハンドルを握っていた。同じ車の後ろの席では、爆笑している渋谷先生と、澄ましているクラ子が乗っていた。
どうしてクラ子が先生の車に乗っているか。
それはサッカー部マネージャーの錦子が理由だ。彼女が部員からチヤホヤされる事で他のマネージャーが全員辞めてしまい、ことさら村上から大切にされている。
合宿の送り迎えも、女子1人だし、クラ子と一緒なら送迎しても良いだろうという配慮だ。
(部員達から守る為でもある)
そして今は、最後に拾う錦子の家までの道中。
ペーパードライバーの丸山を見かねた村上が運転を指導している。車内に響く村上の声と、ビビりすぎて反対の事をやっちゃう丸山と、爆笑し続ける渋谷。
実はゲラのクラ子も、もうそろそろ限界が来ていた。渋谷先生の前で?いや、醜態は見せたく無い、と思った瞬間、
プスん、
と間抜けな音がして車がエンストして止まった。
何も無い農道で。
「あ〜はっはっ、やばいってゲラゲラ」
クラ子は全開で笑っていた。
58)戸惑いの錦子
錦子は家の前で、村上先生(とあと3人)がお迎えに来るのをずっと待っていた。
村上先生(とあと大勢)とお泊りするなんて。
昨日はワクワクして寝れなかったぴょん!
あれは何?遠くの方から、縦にガタガタ揺れている車がぎこちなく近ずいてきた。運転席には憔悴しきった丸山先生と後部座席でゲラゲラ笑い転げている渋谷先生とクラ子!?
村上先生は?と思った瞬間、車の横から急に村上が出てきて
「ストォップッ!」
とボンネットを手で抑えて言った。
丸山はびっくりしてまたもやエンストで車を止め、
「手、手で車を止めたぁ!!」後ろの席の2人は又ゲラゲラ笑いだした。
「カオス。」錦子は思った。
「クラ子、お前本当にオモロイわ、なんでいつも澄ました顔してんねん、笑った顔めっちゃ良いわ」
素を出し過ぎたっと思っていたクラ子は渋谷先生の言葉にときめいた。
「そんで、屁でも出されたら惚れてまうわ」
またこの人は!
私をキュン死にさせようとしているわね!
59)すばる君は薫ちゃん似
錦子を乗せてからは村上が運転した。
さっきと同じ車だとは思えないほどスムーズにマニュアル車を運転している。村上が「色々考えて」決めた席は助手席に渋谷、運転席の後ろに錦子、真ん中にクラ子、その横には憔悴しきっている丸山が座っている。
この車はワンボックスカーで、後方の荷台にはサッカー用具がぎっしり積まれていた。
目的地はかなり辺鄙なところとは言え、乗り換え無しの電車一本で行く事が出来る。
だから、他の生徒はかなりの時間がかかるものの現地集合で大丈夫なのだ。
クラ子は錦子と軽く喋りつつ、前の席に座っている渋谷先生の横顔を眺めていた。
村上先生と楽しそうに喋っている。こんな近くで彼を観察出来る時が来るなんて。、、すばる君はいつも髪を縛っているけどあれは天然パーマよね。髪をほどくとどんな感じになるのかな。ERの薫ちゃんくらいかな、髭は無いけど。きっと、濡れた髪は色気ハンパないだろうな、もしかして、今日、見れちゃう!?ゴクリ。キャ〜キャ〜!!!
妄想にふけっていたクラ子と、そして錦子でした✨
60)もうcan't stop 錦子
錦子は、村上先生(とあと3人)と一緒の車に乗っている事がまだ信じられない。
とにかく妄想が止まらない。
先生の後部座席なので後ろ姿しか見えないけど、エロさが溢れ出ているからこれでOK。これ以上近ずくと無理、死ぬ。学校だとカッチりまとめている髪も、ちょっとボサボサで『休日感』半端ないわ。いつもスーツかジャージ姿だけど、シンプルな白いTシャツがよく似合っている。どこのブランドかしら。とにかくスタイルがいいのよ、良すぎるのよ。迷彩の短パンはパンピーだとイラつくけど彼が着ると「正解!」しか無い。足がスラリと長いから。まあ、私が彼女だったらぴったりのジーンズを合わせてあげる、いや〜ベストジーニストなんかになっちゃう、だってお尻が良いから!プリっと上がったお尻を見て〜いや誰も見ないで!!それから、あの目!フロントミラー越しにチラッと見える彼の目はトイプーみたいで愛おしい。いやッ誘拐されちゃう、でも1番興奮するのは指ね。あのゴツゴツしていながら長い美しい指で、私の髪を触られたらきっと、、
錦子の妄想が止まらない。