16 山田女子の会
76)まだ学校にいるヤス子
ヤス子は焦っていた。
今日はクラ子がマネージャーをしているサッカー部の試合がある日。本当だったら始発で行かないと最初の試合に間に合わないのに、生徒会の雑用で遅れているからだ。
学校に寄ったので、午前の試合は諦めよう、と思った時、大倉先生に呼び止められた。
「良いところに!!ヤス子ちゃんサッカーの応援行くって言ってたよね」
「はい、今から向かうのですが」
「悪いけど、横山先生にこれ届けてくれへん?僕は今日は学校でお留守番だから」
手渡されたのは、携帯電話と、『トーマス』の財布?
「え、これ、横山先生に?」
頼んだよ、と言って大倉先生は行ってしまった。
大倉先生は、本当に素敵だしカッコいい。一見チャラくて、冷めてるようで、実は熱くて、そのくせ本当の自分を見せない。そういうギャップもミステリアスな所も大好きで、ファンになった理由。
反対によこちょ先生は分かりやすい。
すぐムキになるし、周りを見渡しすぎて、自分の事が見えていない。
よこちょ先生は。
77)山田が合流
試合会場は電車で一本とはいえ、かなり時間がかかるし心細いので、ヤス子は、ちょうど陸上部の練習が終わったマル子を誘った。
マルコは「私本当は行きたかったんだ〜」
と、喜んでついてきてくれた。
お互い、クラ子を通しての友達ではあったが、深く喋った事はない。
でも何となく通じるものがあって、2人っきりでも全く苦じゃ無い。
ところで大半の荷物は駅のロッカーに預けてきたものの、マル子は凄い荷物だ。
「ねえ、マル子先輩、この荷物って何ですか?」
「やだ!マル子ちゃんで良いわよお。この荷物は耐震双眼鏡よ。」
さらっというマル子に
「サッカー部は強いですもんね、」
と一応返事はした。(そんなスタジアム級の会場でも無く、地方の県営グラウンドの試合だけど?)とヤス子が考えていると、
「ヤダヤダ、サッカー部じゃ無いわよう、これで安田先生をガン見するのよ」
と真面目にマル子が答えた。
「??安田先生も今日来るんですか!?」
「そうなの。今日の彼のスケジュールは朝からサッカー部の試合の応援ね☆」
「わあ〜〜ストーカーですね」
「うふふ、そうなの💕」闇の笑顔で答えるマル子ちゃん。
78)電車の中 お姉様登場
「わあ〜〜本当に安田先生のガチのファンなんですね、クラ子からは少し聞いていたけど」
「うふふ。ファンじゃ無いわ、ガチで愛しているのよ」
「そうなんだ〜🤗」
「卒業までに、」マル子は力強く言った「彼の胃袋をつかむ訓練をしているの」
「へええ」
「ヤス君はだんだんと飢えてくるのよ、私の手料理が無いと。週に2回の家庭科部で調理したものは全て彼に与えているわ。2人っきりで食べていると、『これが毎日だったらなあ〜』って思って来るから。そのうち、必ず!」
「へえ〜〜そのうちマル子ちゃん薬でも入れそうですねえ」
「うふふ、いい薬知ってる?」
「ちょっと、わかんないですう〜🤗」
「やめて」
急に、イライラした声が間に入った。
「あんた達、こんなに大勢の人の中で、よくそんな話をニコニコとしていられるわね」
ヨコ子が怖い顔をして目の前に立っていた。
「きゃあ〜ヨコ子先輩!どうして?」
「私も応援に行こうと思って。」
「え!いつもの黒塗りの送迎車は!?」
「電車の方が早いじゃない。午前中はお弁当作ってたから。」
79)山田に挟まれるヨコ子
とにかくヨコ子は地獄の数時間を乗り切った。ヤス子とマル子の会話はとりとめがなく、ふわふわしていて、噛み合って無いようで、それでいて会話が永遠に続いていく。
「こんな時にムラ子がいてくれたら。どんどん突っ込んでくれるのに」
やっと目的の駅についた。
「そういえば」ヨコ子は言った。
「コーラス部は?」
「はい、いつもの一回戦落ちです」マル子が答えた。
「あんなダラダラの部に、よくクラ子が熱心に行ってるわね、そんなに歌が好きなの?」
「いえ、下ハモばっかで面白くないって言ってます」
「、、?真面目なのね」
「いやあ、そういう訳じゃ無いと思いますけど」とヤス子とマル子は顔を見合わせた。
2人は、それだけで全てを把握した。(つまり、クラ子は渋谷先生に会うためにコーラス部にいる事、ヨコ子先輩とはいえ喋らない方が良い事。をお互い目を見ただけで確認したのだ)
繊細なクラ子をそっと見守るスタンスの2人は、両側からヨコ子先輩の腕を組んで
「さあ行きましょう〜」と駅を出た。
山田女子に挟まれたヨコ子は、
「何?何?」
と言いながらも大人しく付いていく。
80)サッカー部試合会場 お昼休み
サッカーの会場は、丁度午前の試合が終わったところだった。会場に入ると、マル子はおもむろに耐震双眼鏡を取り出し、ヤス子もカバンから小さな袋を取り出してぎゅっと握っている。
自分の高校の応援団の方へ行ってみると、横山先生がウロウロ落ち着かずに立っていた。
その姿を見ると、ヤス子は何だか大切な宝物を見つけた様な、誰にも見て欲しく無いような気分になった。
確かに横山先生は白く輝いていたけれど!白飛びしていたけど!深呼吸して気持ちを落ち着けると先生の側へ駆け寄った。
村上先生は、
「俺はいつお昼を食べたら良いんや」と駄々をこねる渋谷先生に「いつでも食べたら良いやん」と返事し、ウンザリしている錦子にギャグを言い続けている丸山先生の頭をはたき、ウロウロしている横山先生に、落ち着かんから座れ!と言おうとした。
その時、パッと横山の顔が明るくなった(発光しているのかと思った、村上後日談)
「もう、よこちょ先生〜」
とヤス子がやってきた。